【政策インサイト】容量市場、上限価格引き上げへ舵切り ― 1/30検討会で示された「Net CONE」維持と「高価格許容」の深層

 2026年1月30日、第71回「容量市場の在り方等に関する検討会」が開催され、次年度以降の容量市場における需要曲線の算定方法、特にNet CONE(指標価格)上限価格の扱いについて重要な方向性が示されました。
 議論の核心は、建設コスト高騰を背景に「市場価格の上昇をどこまで許容するか」という点にあります。

1. 議論の背景:建設費高騰と「価格シグナル」の機能不全懸念

容量市場の価格指標となる「Net CONE(New Entry Cost of New Energy)」は、最新鋭のLNG火力電源の建設・維持コストを基準に算定されます。しかし昨今の資材価格・人件費の高騰により、実勢コストと算定値の乖離が懸念されていました。
指標価格が低すぎれば、新規電源(特に蓄電池や脱炭素電源)への投資インセンティブが働かず、将来の供給力不足を招く恐れがあります。

2. 提示された方向性:「案2(上限価格のみ引き上げ)」が有力

検討会では、以下の2つのアプローチが比較検討されました。

  • 案1: Net CONE(指標価格)自体を引き上げ、それに連動して上限価格も引き上げる。
  • 案2: Net CONE(指標価格)は現状維持とし、上限価格のみをNet CONEの1.5倍以上に引き上げる。

資料5では、国の審議会において「案2(上限価格のみ引き上げ)」が示されたことが報告されています。 これは、「ベースとなる指標価格を上げて全体的な国民負担を増やすことは避けつつ、需給逼迫時や高コスト電源が必要な際には、高い約定価格(上限張り付き)を許容する」という、メリハリの効いた制度設計への転換を意味します。

3.事業者への影響:需要曲線の形状変化

「案2」が採用された場合、需要曲線は「上限価格が高い位置」に設定されることになります。 これにより、以下の変化が予想されます。

  1. 高コスト電源の生存確率アップ: これまで上限価格に阻まれていた高い維持費を持つ電源や、新規投資回収が必要な電源が、約定しやすくなる(または適正価格で応札しやすくなる)。
  2. 価格ボラティリティの拡大: 需給が緩い時は従来通りの価格帯だが、需給が引き締まった際には、従来の上限を超えた高い価格で決まる可能性(スパイク)が生じる。

各事業者の影響は?

前述の通り、第71回検討会では「Net CONE維持・上限価格引き上げ(案2)」が有力視されました。この制度変更は、電力バリューチェーン全体に波及する「ゼロサムゲーム」の側面を含んでいます。
 エナジーアグリラボの視点から、各プレイヤーへの具体的な影響と、今取るべきアクションを提言します。

4.発電事業者(安定電源):老朽火力の「延命」と「選別」

上限価格が引き上げられ、高値約定の可能性が生まれることは、維持コストがかさむ老朽火力発電所にとって「延命」のチャンスとなります。

  • 影響: 従来の上限価格では採算割れし、退出(廃止)を検討していた電源が、市場価格のスパイク期待により維持される可能性があります。
  • 戦略: ただし、Net CONE(ベース価格)は上がらないため、常に高値で売れるわけではありません。「需給逼迫が見込まれる年度だけ応札し、それ以外は休止する」といった、より機動的な資産運用が求められます。

5. 系統用蓄電池事業者(新規電源):投資判断の「最終ゴーサイン」

新規参入を目指す蓄電池事業者にとっては、今回の上限価格引き上げは、投資決断を後押しする最大の好材料です。

  • 影響: 建設費が高騰している現在、従来の価格キャップは参入障壁となっていました。上限が引き上げられることで、入札戦略次第で高い容量収入(kW価値)を得られる道が開かれます。
  • 戦略: 「安値で確実な落札」を目指す守りの入札から、「需給予測に基づき、高値での約定を狙う」攻めの入札への転換が必要です。特に、再エネ導入が進み調整力が不足するエリア・年度を見極める「市場分析力」が、そのまま収益力に直結します。

6. 小売電気事業者:容量拠出金という「見えない債務」の膨張

今回の制度変更で最も深刻な影響を受けるのが、小売電気事業者(新電力含む)です。 容量市場の原資は、小売事業者が支払う「容量拠出金」です。上限価格が上がり、約定総額が膨らめば、その負担はダイレクトに小売事業者に跳ね返ります。

  • 影響(負担増のメカニズム):
    • 上限価格引き上げにより、スパイク時の約定価格が上昇します。
    • 結果として、容量市場の総落札額(=翌々年度などに支払う拠出金総額)が増加します。
    • 特に、自社電源を持たない小売事業者は、このコスト増を電気料金に転嫁せざるを得ず、価格競争力を喪失するリスクがあります。
  • リスク: 容量拠出金の額は、数年後の支払時に確定するため、現在のキャッシュフロー経営を直撃する「隠れ債務」となります。予期せぬ拠出金高騰により、黒字倒産や事業撤退に追い込まれる事業者が続出する恐れがあります。

エナジーアグリラボの視点:リスクヘッジなき小売事業者の淘汰が始まる

今回の議論は、日本の電力市場が「安定供給(kW価値)」に対して、より高いコストを支払う覚悟を決めたことを意味します。このコストを誰が負担するかといえば、最終的には需要家ですが、その徴収代行を行うのは小売事業者です。

小売事業者への緊急提言: 「容量拠出金はパススルー(料金転嫁)すれば良い」という考えは甘いと言わざるを得ません。拠出金単価が急騰した際、転嫁しきれずに赤字を垂れ流すリスクがあるからです。 今後は、以下の2つの防衛策が必須となります。

  1. 「容量市場デリバティブ」や相対契約の活用: 発電事業者と相対で電源を確保し、容量価値込みの契約を結ぶことで、拠出金変動リスクをヘッジする動きが加速するでしょう。自社電源を持たない「ピュア新電力」のビジネスモデルは、限界を迎えています。
  2. ピークカット(kW削減)の徹底: 容量拠出金は、各小売事業者のピーク需要(H3需要)に基づいて配分されます。DR(デマンドレスポンス)を活用してピーク時の需要を抑制することが、拠出金を減らす唯一かつ最大の対抗策です。

結論: 上限価格の引き上げは、発電・蓄電側には「投資の好機」ですが、小売側には「淘汰の引き金」となります。この非対称性を理解し、いち早く「kW価値の自衛策」を講じた企業だけが、2020年代後半の市場を生き残ることができるでしょう。

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