【審議会インサイト】電力の「最後の砦」需給調整市場、2026年春のルール大改正を解説
2026年1月23日に開催された「第110回 制度検討作業部会」にて、私たちの電気の安定供給を支える「需給調整市場」の今後のルールについて、非常に重要な方針転換が示されました。
専門的な分野ですが、将来の電気料金や電力ビジネスにも関わる大切な話です。今回は、その背景と決定事項を分かりやすく解説します。
1. そもそも「需給調整市場」とは?(初心者向け解説)
私たちが使う電気は、「作る量(発電)」と「使う量(需要)」が常にピッタリ同じでなければなりません。これが崩れると、周波数が乱れて大規模な停電につながってしまいます。
しかし、天気によって太陽光発電の出力が変わったり、気温によってエアコンの使用量が変わったりするため、完璧な予測は不可能です。この予測と実際の「ズレ」を、瞬時に埋める(調整する)ための能力を取引するのが「需給調整市場」です。
まさに、停電を防ぐための「最後の砦(とりで)」となる発電所などの能力を確保する場所と言えます。
需給調整市場の落札システムは、入札された値札に基づきメリットオーダー順に入札容量を募集容量になるまで積み上げます。そして、入札容量上限になる値札までが落札されるというマルチプライス方式を採用しています。
2. なぜ今、見直しが必要なのか?
2026年3月(2026年度)から、この市場の仕組みが新しくなり、よりスピーディーな取引(前日市場化・30分単位化)が始まります。しかし、準備を進める中で大きな課題が見えてきました。
募集量を適正化し、調整力調達コストの高騰を防ぐ観点から、2026年度以降、前日取引化する一次~三次①(以下「複合市場」という)における募集量・上限価格を見直す方向性について様々な意見が「第109回作業部会」で出された。
調整力の確保の重要性が増す中で、需給調整市場の市場運営の健全性を担保するための議論され見直しが図られた。
3. 今回決まった「緊急避難的」な新ルール
この危機を回避するため、国は2026年度の市場開始に向けて、あえて「理想を少し下げて、現実的な安定を優先する」という大きな決断をしました。主な一次・二次①・複合商品における募集量・上限価格の変更点は以下の2つです。
① 募集する「量」を大幅に減らす(3σ → 1σへ)
- これまでの方針: 「滅多に起きないような大きな変動(3σ:さんシグマ)」にも対応できるよう、たっぷりと調整力を確保しようとしていました。
- 今回の決定: 逼迫時にはどうせ集まらないため、目標を「普段ならこれで足りるだろうという標準的な変動量(1σ:いちシグマ)」まで大幅に引き下げます。
※足りない分はどうする? → 調整市場だけに頼らず、その手前の「卸電力市場(時間前市場など)」などを総動員してカバーする運用に切り替えます。
② 価格の「上限」を引き下げる
- これまでの方針: 価格の上限は高めに設定されていました(三次調整力の3σ相当)。
- 今回の決定: 異常な高騰を防ぐため、上限価格を「15円(/ΔkW・30分)」へと引き下げます。
ただし、市場における競争状況に改善が見られない場合、10円、7.21円/ΔkW・30分等と段階的に引き下げるという附則も加えられております。
4. 今後の影響とまとめ
今回の決定は、同時市場が開設されるまでの市場開始直後の混乱を避けるための「現実的な対応」と言えます。
- 電力会社・発電事業者にとって: 需給調整市場で得られる収益の「天井」が低くなるため、ビジネス戦略の練り直しが必要になります。
- 私たち需要家にとって: 市場価格の異常な高騰が抑えられることで、最終的な電気料金への急激な転嫁リスクが一定程度緩和されることが期待されます。
「最後の砦」を守るためのルール作りは、理想と現実のバランスの中で難しい舵取りが続いています。引き続き、この分野の動向を注視していく必要があります。
💡 エナジーアグリラボの視点:「調整市場一本足打法」の終焉と新たな戦略
「募集量の削減(1σ化)」と「上限価格の引下げ(15円)」は、需給調整市場における収益の「天井」が、物理的にも価格的にも低くなったことを意味します。
これは、アグリゲーターや蓄電池事業者にとって、「需給逼迫時の高値販売(アップサイド)に過度に依存したビジネスモデル」が成立しにくくなることを示唆しています。
今後の電力ビジネスは、需給調整市場だけに頼るのではなく、卸電力市場(スポット・時間前)の価格変動を捉えた取引や、容量市場による固定収入などを組み合わせる「マルチな収益化戦略」が、これまで以上に重要になります。制度変更を嘆くのではなく、変化したルールの中でいかに最適解を見つけ出すか、事業者の「運用力」が問われるフェーズに入ったと言えるでしょう。


